【S】―エス―01
第9章 刹那
それは3月上旬。
とある施設の敷地内の庭先では、高らかな子供の声が響く。
その子供たちと同じくらいだろう、黒髪の1人の少年。
少年は端で腰を下ろし、抱えた膝に半分ほど顔をうずめ酷く退屈そうに皆が遊ぶ様子を眺めている。
(結局ここも、僕のほんとの居場所じゃないんだ)
自らの本音を吐き出すように小さく息をつき、足元に生えた名も分からぬ草をつまむ。
「ねえ」
突然掛けられた声に意識を引き戻され、振り仰ぐとそこには白いシャツを着た眼鏡の少年がいた。
彼は少年の顔を覗き込む。
「……誰?」
だがすぐに、にこりと人当たりのよさそうな笑みを見せ答えた。
「櫻井 陸(さくらい りく)。僕もここの住人」
「り……く?」
かつて呼ばれた懐かしい名前。それと同じ名前に少年は驚き茶色い目を見開く。
「なんで1人でいるの? 運動苦手とか?」
陸の問いかけに少年はすっと瞑目し、大きく首を横に振る。
「……逆だよ」
再び深い溜め息を漏らし、自分と同じ歳の子供たちを見た。