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【S】―エス―01

第9章 刹那

 持ち前の身体能力のせいか、何をやっても目立ってしまう。


 結局、何かに属そうとしても『自分』という存在は浮いてしまうらしい。


「あんまり僕に関わらないほうがいいよ」


 だがそのことで彼はかえって興味を示したようで、不思議そうに「なんで?」と訊き返す。


 色々と質問の多い奴だ……と今度は目も合わさず倦怠感たっぷりに答える。


「僕は【ヒト】じゃないから」


 だが返ってきたのは、あまりにも意外な言葉だった。


「へぇ、そりゃ面白い」


 どうやら彼を遠ざける為の発言は逆効果となり、ますます興味を持たせてしまったようだ。


 普通なら、少なからず眉をひそめ訝るものなのだが……。


 縁なし眼鏡の奥で、少年への関心に切れ長の瞳を輝かせる陸。


 その姿に、変わった奴だと少年は初めてくすりと笑う。


「そういや、まだ名前聞いてなかったね」


 うららかな陽気の中、彼の言葉にかつてを思い出す。


「名前……か」


 天を仰ぎ考えるような素振りを見せ、そして自分の中で最も思い入れがあり、最も相応(ふさわ)しいであろう頭に浮かんだひとつの名前を答える。


「東雲……刹那」


 それが彼、櫻井 陸と刹那の出会いだった。
 

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