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【S】―エス―01

第9章 刹那

 
 ――


 それから何度か彼と話すようになり、その日も施設内の人気がない階段に座って談笑する。


 窓からの日差しだけが暖かく照らす。


 今まで関わりを避けていた刹那だったが、不思議と彼とは馬が合った。


 聞けば陸もまた両親を知らず、愛が如何なるものかも知らない。


 窓からの斜陽を受け笑ってみせたその瞳の奥には、同種の闇が宿っていた。


(ああ、そうか……)


 その時なぜ彼とここまで気が合うのか初めて理解し、頬を緩ませる。


 そして刹那もまた、自分の知りうる全ての【秘密】を彼に話した。


 初めは興味深々に聞いていた陸だったが、語り終えると同時に真剣な表情になり呟く。


「でも、それが本当なら彼は――」


 だが刹那は何か確信でもあるのか、ふっと空を見上げて陸の言葉を打ち消すかの如くきっぱりと言う。


「きっと生きてるよ。分かるんだ。だって、彼と僕は同じだから」


 口元に笑みを湛え、わずかに細めた目元からは実に穏やかな表情が窺える。


 そんな刹那の左手首には、【S‐07】という数字が刻まれた銀色の鍵が腕時計のようにつけられ、それは鈍い日の光を受け眩(まばゆ)く輝いていた。


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