【S】―エス―01
第9章 刹那
刹那は黒い前髪の間からわずかに表情を覗かせ了承する。
俯き加減なことから微笑を湛えているようにも窺える。
だが、無機質な照明のもと彼を映すその目には困惑や葛藤はなく、むしろ悲しみの色が揺らめいていた。
彼は、刹那の言葉に安堵したかの如く笑う。そのくすんだ褐色の瞳にうっすらと温かなものが滲む。
流れる音楽は『新世界より』を終え、目下『アメイジング・グレイス』に移ろうとしていた。
足元の保冷パックから、試験管に入った水色の薬品と注射器を取り出す。その薬品全てを針から注射器に入れ、刹那は言う。
「【影の命】――。これで最後だ」
むき出しとなった針を彼の右腕に射し、通称【影の命】と呼ばれた水色の薬品を一気に送り込む。
「――っ! ひゅ……、っが……!」
途端に彼の呼吸が荒くなり、体は真っ直ぐ伸ばした四肢を指先まで強張らせ、激しく痙攣(けいれん)する。
「……っ!」
びくん、びくんと何度も小刻みに痙攣するその体を、歯噛みし押さえ込む刹那。
モニターからは、単発的な警告音がけたたましく鳴る。
俯き加減なことから微笑を湛えているようにも窺える。
だが、無機質な照明のもと彼を映すその目には困惑や葛藤はなく、むしろ悲しみの色が揺らめいていた。
彼は、刹那の言葉に安堵したかの如く笑う。そのくすんだ褐色の瞳にうっすらと温かなものが滲む。
流れる音楽は『新世界より』を終え、目下『アメイジング・グレイス』に移ろうとしていた。
足元の保冷パックから、試験管に入った水色の薬品と注射器を取り出す。その薬品全てを針から注射器に入れ、刹那は言う。
「【影の命】――。これで最後だ」
むき出しとなった針を彼の右腕に射し、通称【影の命】と呼ばれた水色の薬品を一気に送り込む。
「――っ! ひゅ……、っが……!」
途端に彼の呼吸が荒くなり、体は真っ直ぐ伸ばした四肢を指先まで強張らせ、激しく痙攣(けいれん)する。
「……っ!」
びくん、びくんと何度も小刻みに痙攣するその体を、歯噛みし押さえ込む刹那。
モニターからは、単発的な警告音がけたたましく鳴る。