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【S】―エス―01

第10章 化け物

 
「東雲!」


 人々の喧騒をも打ち破る少年の声に、意識はそちらへと奪われる。


「げっ、四宮!」


 茜は四宮(しのみや)というらしい制服姿の茶髪男子を見るや否や、身を引き嫌悪の姿勢を露にする。


 当の四宮は、茜の隣にいる瞬矢の姿を目視した途端、ぴたりと足を止め訝しげに言い放つ。


「おまえ誰だ?」


 彼の言う『おまえ』が自分を指しているというのは、瞬矢もなんとなく理解できた。だが、それに答えたのは瞬矢ではなく……。


「あんたに関係ないでしょ!?」


 茜だった。きょろきょろ辺りを見回しやがて視点を定めると、ひとつ声を上げる。


「こっち!」


 不意に手首を掴まれ、がくんと重心を崩しよろめくが、すぐさま持ち前の運動神経で駆け出しながら体勢を立て直す。


「ちょっ……!」


 それに対して茜は立ち止まることも振り返ることもせず、駆け足で人波を縫う。故に結果として、茜に手を引かれる形となった。


(フツー、逆だろ!?)


 などと内心突っ込みを入れたりもしたが、今はついて走るより他なかった。
 

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