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【S】―エス―01

第10章 化け物

 あまり人気のない中庭で、ようやく立ち止まった茜は肩で息を切らす。


 ――やはり真意が見えない。


 辺りに定期的な刻限を報せるチャイムが響く。それをかわきりに、解放された右手首を軽く擦(さす)りながら瞬矢は切り出す。


「なんでまた……」


 すると茜は返答しづらそうに右足でとんとんと地面を蹴り、やがて一時の間の後開口する。


「色々あったでしょ? だから……その……少しでも気分転換になればって」


 視線を落とし、外壁に凭れながらしどろもどろに答える。そして言葉の最後に「もう、依頼じゃないんだし」と付け足す。


 きっと彼女なりの気遣いのつもりだったのだろう。わずかにだが、茜の真意が垣間見れた気がした。


「ん、ありがとな。でも大丈夫。それに、もう戻れないところまで来ちまったからな」


 瞬矢はふいっと軽く天を仰ぎ、まるでこの半年の間に起こった出来事ひとつひとつを思い返すかのように呟く。


「そう……だよね」


 事実、今まであったことを……すでに知ってしまったことを忘れろなど、もう無理な話だった。


 追い続けてきた真実が、すぐそこに待ち構えているのだから。
 

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