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【S】―エス―01

第10章 化け物

 茜もそのことに気づきそして理解していたのか、俯いたまま訥々と言葉を返す。


 瞬矢は回顧する。


 今思えば、なんと言われようともあの場所へは自分1人で行くべきだった。そうすれば茜も【あんなもの】を見ることなどなかったと。


 今さら何を言ったところで、詮なきことなのだが……。


 改めて日の光でにわかに照らされた茜の姿を横目で捉える。


「その格好、わりと……」


 途中で言葉を切ると茜に背を向け、ぽつり「似合ってる」と。それは、傍にいた茜ですら聞こえるか聞こえないかの声。


「――えっ?」


 小さな驚嘆の声と共に茜が振り向き見たのを瞬矢は知らない。


「……帰る。約束どおり顔は見せたからな」


 くしゃりと黒髪をひと掻きし、自らの羞恥を繕うように背を向けた状態で言い放つ。


 だが次いで発せられたのは、全く対局の至って穏やかな言葉。


「それに、まだ調べておきたいことがあるしな」


 ふと思い出したかのように足を止め、やや見返りがちに言う。その口元にわずかな笑みを湛えながら。


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