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【S】―エス―01

第10章 化け物

 すでに若干の平静を取り戻しつつあった男は、観念したかのように答える。


「ああ、また会ったな」


 だが普段より、あまり記憶に留めない瞬矢にとってそれが誰なのか知る訳もなく――。


「?」


 はて誰だったかと小首を傾げるのだった。


 瞬矢の疑問に答えるかの如く、男は口元に笑みを湛え中年期特有の渋みのある声で言う。


「東雲 暁を捜している……いや、正確には捜していた人間と表現した方がいいか」


 いまだ思い出せず首を捻る瞬矢だったが、男のその台詞に「ああ!」と小さく感嘆の声を上げる。


 ふっと笑みを溢した男は、スーツの胸ポケットから1枚の写真を取り出す。


「なるほど……。確かに『彼』と瓜ふたつだ」


 手元の写真と瞬矢を見比べ、妙に納得したかのような口調で言う。


(『彼』……?)


 一旦は眉をひそめ訝るものの、瞬時にそれが何を示しているのか悟り、すかさず男の言葉に付け足す。


「刹那のことか? 当たり前だ。俺たちは双子なんだからな」


 瞬矢は半歩身を引くと右手で自らを示した。


「そう……確かそうだったな」
 

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