
【S】―エス―01
第2章 予兆
――翌、4月2日。
その日は午後から生憎の雨。ビニール傘をさしコンビニ袋を下げて部屋へ戻る途中、瞬矢はおやと立ち止まる。
入り口の前、少女が恨めしげな表情で雨雲覆う空を見上げていた。
さてどうしたものかと溜め息をつく。少女の小柄な体が見事にビルの入り口を塞いでいた為だ。
横断歩道の信号が点滅し赤に変わり、人の流れも次第と緩やかになる。傘を畳んだ瞬矢は顔だけを少女へと向け、迷惑そうに言った。
「そこ、通して貰えるか?」
その一言で、ようやく入り口を塞いでいたことに気づいたらしい彼女は、後方へとずれながら振り返る。
「っ! ごめんなさい。――あっ!」
くりくりとした茶色い瞳を向けて、口元に右手をあてがい驚嘆の声を漏らす。
「?」
彼女の驚く理由が分からず、瞬矢は小首を傾げる。
「昨日は、ありがとう」
(昨日――?)
あやふやな記憶を手繰り、思い出そうと再度少女に視線を落とす。
くりっとした茶色い目に鈴の音のような高い声。
「――あっ!」
思い出した。そう、先日助けたあの少女である。
「でも、どうして?」
