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【S】―エス―01

第2章 予兆

 じっと見つめ訊ねる少女の瞳は、なぜ見ず知らずの自分を助けてくれたのか、そう言いたげだった。


「それは――」


 返答に困り、人差し指で右頬を掻きながら視線を游がせる。


 本当のことを言ったところで信じてなど貰えないだろうし、怪しい奴と思われるのがオチだろう。


 考えた揚げ句、瞬矢は最も無難な答えを導きだす。


「単なる気まぐれ、かな?」


 だが少女は、そのぱっちりとした両目で瞬矢を見上げ逆にこう問う。


「あなた、何者なの?」


 思わぬ質問に瞬矢は歩みを止め振り返り少女を見下ろす。


「斎藤 瞬矢、探偵だ」


「探……偵?」


 瞬矢の言葉を復唱すると丸い瞳をぱちくりとさせ、少女は見上げる。


 今度こそ部屋へ戻ろうと、ふいっと少女に背を向け玄関をくぐろうとした。だが少女は咄嗟に駆け寄り右腕を掴む。


「……待って!」


「――っ!?」


 びくっと反射的に身を震わせ、目を見開き掴まれた腕に視線を送る。


 それに気づいた少女はするりと手を放し、やがて何かを決心したかのような顔で言う。


「捜してほしい人がいるの」


 信号が青に変わる。少女と瞬矢を残し、再び人波は動き出す。


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