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【S】―エス―01

第11章 怪物の涙

 そこには合成繊維の他にごく微量ながらアルブミン、グログリン、リゾチームなどの蛋白質、加えてリン酸塩などが検出されたことが記されていた。


 その結果が示すもの。それは――。


「……涙?」


 訝しげに答えを導きだす。


「涙……ですか」


 山田は改めて分析結果を覗いて「なるほど」と納得するかの如き口調で繰り返した。


 知ってのとおり涙の原料となっているのは血液であり、排出される過程で弱いアルカリ性を帯びたあのしょっぱい無色透明な水へと変わる。


「!?」


 しかもその涙が被害者の遺伝子情報と一致したというのだ。


 勿論それが被害者のものという可能性も十分あったが、やはり引っかかるのは遺体の状況。


 考察する香緒里だったが、思い出したかのようにはたと顔を上げ訊ねる。


「被害者の身元の特定は?」


 山田は首を横に振り、ひとつ溜め息をつく。


「まだかかるみたいです」


 香緒里は「そう」とだけ返し、するりと山田の傍らを通り廊下に出る為ドアをくぐる。


 香緒里の言動に「どこ行くんですか」と小走りで後を追う。


「もう一度、【S】の事件を洗い直すのよ」
 

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