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【S】―エス―01

第11章 怪物の涙

 10年前、香緒里の父は現職の警察官だった。


 そう、『だった』。1年も終わりに差し掛かろうとする12月の末までは。


 見通しのよい十字路で起きた不慮の事故。


 それが遺された香緒里たち家族に突きつけられた父の死因。


 だが【事故】の一言で片付けられた父の死因は、香緒里にとっても到底納得できるものではなく……。


 ふいっと山田から視線を逸らし、ナチュラルブラウンの長い髪をさらりと宙に躍らせながら前へ向き直る。


 当時のことを思い出し、悔恨の気持ちを隠すべく廊下の先を見据えたまま下唇をぎゅっと噛むのだった。


     **


 天に向かい聳(そび)えるビルに囲まれ、見上げた狭い空には秋晴れが広がる。


 まずは第2の事件、六野の殺害現場となった河川敷周辺からあたることにした。


 現場を目撃した者はわずかであったが、皆、口を揃えて写真の人物――つまり斎藤 瞬矢を見たというのだ。そう、櫻井 陸ではなく。


 ここへきて、香緒里の疑問はさらに増す。


 兎にも角にも、現場周辺の監視カメラの映像を調べ上げることにした。
 

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