【S】―エス―01
第11章 怪物の涙
香緒里は一瞬我が耳を疑った。
しかし遺伝子情報だけでなく指紋までもが彼のものと一致したのなら、科学的根拠においてもほぼ間違いないのだろう。
……だが、この拭い去れない違和感はなんなのか。
言い知れぬ、心にかかった靄(もや)のような晴れない感覚が香緒里を襲う。
香緒里のもとに上司から連絡があり、違和感を抱えたまま一度署の方へ戻ることにした。
そして言い渡されたのは、香緒里にとって最悪ともいえる上からの通達であった。
――午後3時50分。
真実を前にしてなかなか手が出せない歯痒さに、親指を唇へ押し当て臍(ほぞ)を噛む。
目の前の通りを歩く1人の人物に香緒里は立ちすくみ瞼をしばたたかせる。
「どういうこと?」
それは、一度目にしたならば忘れるはずがない。すらりとした身の丈に艶やかな黒髪、整い過ぎた容貌――。
すると人物はぴたりと立ち止まり、やおら顔を上げた。
「!」
香緒里に気づき、長めの黒髪の間からきょとんとした視線を送る。
確実に目が合ったその人物は、紛れもなく『斎藤 瞬矢』本人だった。
まるで亡霊でも見ているような気分に陥ったが、よい機会と香緒里は軽く会釈をする。
しかし遺伝子情報だけでなく指紋までもが彼のものと一致したのなら、科学的根拠においてもほぼ間違いないのだろう。
……だが、この拭い去れない違和感はなんなのか。
言い知れぬ、心にかかった靄(もや)のような晴れない感覚が香緒里を襲う。
香緒里のもとに上司から連絡があり、違和感を抱えたまま一度署の方へ戻ることにした。
そして言い渡されたのは、香緒里にとって最悪ともいえる上からの通達であった。
――午後3時50分。
真実を前にしてなかなか手が出せない歯痒さに、親指を唇へ押し当て臍(ほぞ)を噛む。
目の前の通りを歩く1人の人物に香緒里は立ちすくみ瞼をしばたたかせる。
「どういうこと?」
それは、一度目にしたならば忘れるはずがない。すらりとした身の丈に艶やかな黒髪、整い過ぎた容貌――。
すると人物はぴたりと立ち止まり、やおら顔を上げた。
「!」
香緒里に気づき、長めの黒髪の間からきょとんとした視線を送る。
確実に目が合ったその人物は、紛れもなく『斎藤 瞬矢』本人だった。
まるで亡霊でも見ているような気分に陥ったが、よい機会と香緒里は軽く会釈をする。