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【S】―エス―01

第2章 予兆

 静かな部屋にカチカチと時計の音だけが響く。


 ガラステーブルを挟んで少女と向かい合うように座ると、軽く足を組みソファに凭れ掛かっていた。


(東雲……? どこかで……)


 どうやら東雲 茜(しののめ あかね)という名前らしい彼女は、対となっているソファに遠慮がちに腰掛け、なかなか話そうとしない。


 もうかれこれ20分ほどこのような状態が続いている。沈黙に耐え兼ね、瞬矢は訊ねる。


「……で、昨日の奴らは?」


 だが茜は「分からない」と大きく首を横に振り、視線の先のテーブルを見つめようやく切り出す。


「でも、たぶん父の事を捜してるんだと思う。居場所訊かれたから。けど……、そんなの知ってたらとっくに捜してる」


 組んでいた足を崩し、ひょいっと身を起こす。


「じゃあ、捜してほしい人ってのは……」


 茜はひとつ頷き言葉を続ける。


「10年前、父は母と私を残して何も言わずに姿を消した」


 膝の上で握られた両手にぎゅっと力がこもる。


「お願い、父を捜して」


 瞬矢は一度ソファに深く座り直し、やや前のめりな状態で開口する。


「俺なんかを信用していいの?」


「……っ」
 

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