テキストサイズ

【S】―エス―01

第11章 怪物の涙

 突如、香緒里の口をついて出た『刹那』の名前。


 今までから一転して刹那の存在を認める発言、彼女もまた自分と同じことを考えていたという事実に瞬矢は目を細める。


「ああ。なんだ、散々疑っといてやっと信じる気になったのか」


 含み笑いをまじえ、右手で頬づえをつきながら半目する瞬矢。対して思い出すように香緒里は言う。


「どちらかと言えば『信じざるをえなくなった』というところかしら。――で、あなたの言う要求って?」


 瞬矢は唇を三日月形につり上げ、香緒里を見据えるように顔の横で人差し指を立て言った。


「まずひとつ。この屋敷にいた『刹那』の戸籍、出生を調べてほしい」


 立ち上がると歩を進め、香緒里に住所と所有者名が書き写された紙片を渡す。というのも、警察の人間の方が確実に情報を引き出せると見込んだからだ。


 すれ違いざま、ふと何かに気づいたかのような声色で香緒里がぽつりと呟く。


「そういえば彼女、見かけないわね」


 その台詞を聞き、瞬矢はドアの手前でぴたりと足を止める。ぐっと声を殺し答えた。


「……茜か。あいつならたぶんもう来ない」
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ