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【S】―エス―01

第11章 怪物の涙

 俯いたことで黒い前髪がかかる。その間から覗かせる表情は、とても苦々しい面持ち。


「もう、俺なんかに関わらないほうがいいんだ。あいつの為にも……」


 黒い瞳の奥で鈍くたゆたう光は仄かな闇を宿す。


 瞬矢に半ば本心ともとれる言葉を吐かせたのは、やはり先日の一件あってのことだった。


 いつまたあのようなことが起こるとも限らない。その際、茜を己が手にかける光景を連想し、眉間に皺を刻む。


(この力……、この手であいつを傷つけてしまう前に……)


 これでいいんだ、と区切りのつかない思考に自己完結を強いる。


 伏せた瞼の裏にふっとよぎる、温かな日だまりの如き茜の笑顔。その残像を掻き消すように首を振り息をつくと、口調を改め話を切り替える。


「……あとひとつ。例の遺体が見つかった場所、どこか案内してくれ」


 くるりと踵を返し、ぴんと人差し指に次いで親指を弾き立てる。同時に浮かべる貼り付けたような微笑。


 ――午後4時20分。


 オレンジ色の夕日を受け、わずかに影を落とす曖昧な笑み。その下に、本人すら判断しかねる複雑な心を押し隠して。


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