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【S】―エス―01

第11章 怪物の涙

 ◇3


 ――午後5時04分。


 現場は屋敷跡のある場所からほど近い林道にあった。二車線道から右手に細く枝分かれした道を少し入ったところで車を停め外へ出る。


 辺りは鬱蒼とした木々が根を張り、道路一本挟んで四方に枝を巡らす。夕闇のわずかな光すら遮るその光景は、さながら木のトンネルと喩えてもいいだろう。


 涼やかな秋虫の鳴き声が、静まり返った山中に響く。湿気を帯びた土の匂いが漂う中、いまだ木と木の間に黄色いテープが張り巡らされてあった。


 瞬矢は立ち入り禁止のテープが貼られてある丁度現場の手前まで歩み出たのだが、


「――っ!」


 すぐ左側の木に片手をつき、くしゃりと顔を歪めもう片方の手で頭を押さえる。


 よろよろと頭を垂れ、伏し目がちに一点を見つめる。視線の先にあるのは腐葉土。


「刹那?」


 やがてぽつりと呟くそれは、幼い子供が親しい者に向ける口調と近く。眼前で起きた出来事に、香緒里はごくりと息を飲む。


「なんで泣くの? ……そう。【弔い】……」


(――弔(とむら)い?)


 まるで、木々の合間に巣食う暗闇と会話するかのような光景。
 

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