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【S】―エス―01

第11章 怪物の涙

 煌々(こうこう)と道を照らす車のライトを背に、半目した瞳はどこか妖しく、だがどこか悲しげに揺らいでいた。


 やがて瞑目し小さく息をつくと、踵を返しおもむろに上着のポケットから何かを取り出す。


「ほら、約束の物だ」


 香緒里は、やにわに手渡されたそれを改めて掌の上で確認する。


「メモリーカード?」


 一瞬眉をひそめ訝る。メモリーカード自体よりも、その中身に興味を引かれたからだ。


 見上げた彼の表情にはつい先刻までの悲しげな色はなく、人を小馬鹿にしたような微笑だけがあった。


「恐らく、あんたの父親はその一件に関わっていた。それで『仁井田』っていう偽名を使ってたんじゃないかと思う」


 受け取ったメモリーカードに視線を落とし、10年前と3月末から連続して起きた事件について今しばらく考査する。


 しかし、その香緒里を現実に引き戻したのは、瞬矢の言葉だった。


「最後に。茜を護ってやってくれ」


「けれど……」


 風が木々をざわめかせ、顔を上げ続けようとした香緒里の言葉を掻き消す。
 

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