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【S】―エス―01

第13章 ある日の邂逅

 すぐ傍には楓の大樹。かさ、と少年の足元で落ち葉を踏む音が。


「……あら」


 彼女は少年に気づき【何か】から屋敷の右端へ視線を送る。


 その距離、およそ5メートル。


「――!」


 小さな胸が早鐘を打ち、少年は表情を強張らせる。だが彼女は気に留める様子もなく、むしろにこりと微笑み返す。


「君、ここの子?」


 彼女の笑顔の奥にある真意を量るべくじっと見据えたまま、黙ってこくりと頷く。


 すると彼女は、笑みを湛えたまま「こっちへおいで」と小さく手招きをする。その所作からは、不思議と悪意は感じられなかった。


 ゆっくりと彼女のもとへ止まっていた歩を進める。


「何……してるの?」


 おずおずと訊ねる少年の問いに答えるかの如き柔らかな笑み。


「……これ、コスモスを見てたの。今年も綺麗に咲いたわね」


 そう言って彼女が視線を移す先には、幅細いつんつんした葉やピンクに白に赤紫……と色鮮やかな一群があった。


「コスモス?」


 尚も笑みを湛える彼女の視線を辿り、小首を傾げ、幼い声は不思議そうに復唱する。


 それもそのはず。少年はこれまで知識をこの屋敷内で与えられた本にのみ頼り、想像するしかなかったのだ。
 

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