【S】―エス―01
第13章 ある日の邂逅
低く落ち着きのある声が後方より彼女を呼び止める。
眼鏡をかけ、グレーのネクタイを締めた男はここの屋敷の主だ。珍しく今日は白衣を着ていない。
彼女は目の前の男とすぐ近くの少年を見比べ、何か閃いたかの如く両手を合わせ訊ねた。
「あら、暁さん。あっ……! じゃあひょっとしてこちら息子さんかしら?」
「……ええ、まぁ……」
ちらりと少年を一瞥し、右手で軽く頭を押さえながら言葉を濁す。
それからしばらく、『斎藤』というらしい女性と男は談笑を交わしていた。
傍らでその光景を眺めながら、少年は存在理由について思う。
左手首にはめられた銀色の無機質な文字盤のついた腕輪が滑りしゃら、と鳴る。
手首から伝わるひんやりとした感触が、少年を容赦なく現実に引き戻す。
太陽の光を浴びた少年の茶色い瞳は、自己を形成する全てに対する疑問とわずかばかりの不安に曇り揺らぐのだった。
談笑に一区切りついたのか、ふと彼女が少年に視線を送り訊ねる。
「そういえば君の名前は?」
少年は一度左手首に視線を落とし、茶色い瞳に戸惑いの色を滲ませたがそれも一時のこと。
「――りく」
眼鏡をかけ、グレーのネクタイを締めた男はここの屋敷の主だ。珍しく今日は白衣を着ていない。
彼女は目の前の男とすぐ近くの少年を見比べ、何か閃いたかの如く両手を合わせ訊ねた。
「あら、暁さん。あっ……! じゃあひょっとしてこちら息子さんかしら?」
「……ええ、まぁ……」
ちらりと少年を一瞥し、右手で軽く頭を押さえながら言葉を濁す。
それからしばらく、『斎藤』というらしい女性と男は談笑を交わしていた。
傍らでその光景を眺めながら、少年は存在理由について思う。
左手首にはめられた銀色の無機質な文字盤のついた腕輪が滑りしゃら、と鳴る。
手首から伝わるひんやりとした感触が、少年を容赦なく現実に引き戻す。
太陽の光を浴びた少年の茶色い瞳は、自己を形成する全てに対する疑問とわずかばかりの不安に曇り揺らぐのだった。
談笑に一区切りついたのか、ふと彼女が少年に視線を送り訊ねる。
「そういえば君の名前は?」
少年は一度左手首に視線を落とし、茶色い瞳に戸惑いの色を滲ませたがそれも一時のこと。
「――りく」