【S】―エス―01
第13章 ある日の邂逅
やがて考えるかのように目を游がせぽつりと呟く。
一瞬、酷く冷たい突き刺さるような視線を感じたが、少年はあえてその視線の送り主を見ないようにした。
「そう。『りく』っていうの」
終始にこやかな笑顔を絶やさぬまま『りく』という名前を復唱し、そして――。
「よろしくね」
柔らかな物腰でそう言った彼女を、太陽が背後から眩く照らした。
にこやかに彼女は膝をかがめ、そっと髪から左頬にかけて触れる。
少年は今まで感じたことのない温もりに、ただでさえくりくりと丸い目をこれでもかといわんばかりに見開く。
そしてこう思う。もしこの人が自分の母親だったなら……と。
それは決して口にすることのできない淡い希望で、少年は喉元まで出かけた言葉をぐっと溜飲する。
それから、しばしばその斎藤という女性と庭先で会うようになった。
彼女はいろいろと話してくれた。
自分たちには子供がいないこと。そして彼女と東雲夫妻、特に夕子夫人とは旧知の仲であること。
それは、相手が幼い彼だからこそ話せたことなのかもしれない。
だが母親の名前が出たことで、話の主導権は少年へと移る。
一瞬、酷く冷たい突き刺さるような視線を感じたが、少年はあえてその視線の送り主を見ないようにした。
「そう。『りく』っていうの」
終始にこやかな笑顔を絶やさぬまま『りく』という名前を復唱し、そして――。
「よろしくね」
柔らかな物腰でそう言った彼女を、太陽が背後から眩く照らした。
にこやかに彼女は膝をかがめ、そっと髪から左頬にかけて触れる。
少年は今まで感じたことのない温もりに、ただでさえくりくりと丸い目をこれでもかといわんばかりに見開く。
そしてこう思う。もしこの人が自分の母親だったなら……と。
それは決して口にすることのできない淡い希望で、少年は喉元まで出かけた言葉をぐっと溜飲する。
それから、しばしばその斎藤という女性と庭先で会うようになった。
彼女はいろいろと話してくれた。
自分たちには子供がいないこと。そして彼女と東雲夫妻、特に夕子夫人とは旧知の仲であること。
それは、相手が幼い彼だからこそ話せたことなのかもしれない。
だが母親の名前が出たことで、話の主導権は少年へと移る。