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【S】―エス―01

第14章 闇を照らす光

 わずかに生じた動揺を笑顔の下へと押し隠し、傍らでおざなりとなっている椅子に座りながら答える。


 一旦瞑目し、意を決して開口する。


「東雲 刹那はあなたの息子ですね? しかも彼は12年前に亡くなっている」


 東雲 刹那の名前、そして屋敷の裏にあった墓石のことを話すと、彼女の表情が固まり瞳の奥に動揺の色が窺えた。


 だがすぐさま口角をつり上げふっと笑う。そしてその唇から紡ぎ出されたのは、瞬矢の斜め上を行くものだった。


「いいえ、刹那は……あの子は生きてるわ」


 手元の写真から、誰もいない隣に視線を移し「だって――」と言葉を続ける。


「昨日ね、あの子ここに来たの」


「――!」


 彼女の思いもかけない言葉に、瞬矢は驚愕し目を見開く。その視線はゆっくりと虚空の右隣に送られた。


(あいつが、ここに? そうか。だから……)


 先ほどの、エレベーターを降りてすぐの詰め所でのことを思い出す。


 それは、面会人の欄に名前を記帳しようとした際のこと。居合わせた看護士の1人に言われたのだ。


「息子さんですか? このところ毎日おみえになられて」
 

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