【S】―エス―01
第14章 闇を照らす光
「いえ……」
おおらかな看護士の言葉に対し、やんわりと否定した。
勿論、瞬矢は以前に件の写真を持ち寄って以来、ここに訪れてはいない。だがこの看護士の口振りは、いかにも毎日訪れているようであった。
そして名簿に書かれた名前と瞬矢を見て、なぜか腑に落ちない様子で不思議そうに小首を傾げたのだ。
――その時はそれがなぜなのか分からず終いだったが、なるほど、同じ顔をした人間が別の名前を使っていれば訝しむのは当然のこと。
思考のさ中にあった瞬矢を引き戻したのは、茜の母、夕子の言葉。
「ちょうどそこ……今あなたがいる場所のすぐ隣に立ってね、私のこと『母さん』って。私、ほんとは起きてたんだけれど、なんか顔、見れなくて――」
彼女の嬉しそうに弾む声も、今はどこか遠くに聞こえた。
帰り際、置かれた面会者名簿をぱらぱらと捲る。
10月24日、面会人氏名――『東雲 刹那』。
さらに前日、前々日と面会者の記録を遡る。
東雲 刹那(23日)、東雲 刹那(22日)、東雲……。
いずれも同じ名前が記されていた。思わず右手で口を覆う。
(……なぜ?)