テキストサイズ

【S】―エス―01

第14章 闇を照らす光

 やがて暗闇のもと不明確だった人物の顔を、通り過ぎた車のヘッドライトがにわかに照らす。


(……デジャヴか?)


 ヘッドライトにより明らかとなったその人物を目視し、瞬矢は内心独りごちた。


 因(ちな)みにデジャヴとは、『まだ起きていない出来事をすでにあったように体感すること』をいう。なのでこの場合、正確にはデジャヴではない。


 ――ものの喩えである。




 必然というのは偶然の度重なりであり、あらかじめ用意されたもの。


 そして眼前にいる人物は、紛れもなく茜であった。


 制服のシャツの上に袖がない薄い駱駝色のセーターを着た彼女は、そのぱっちりとした茶色い瞳で【あの時】のように空から垂れ込める闇を見上げている。


(……どうして、なんでここに……!?)


 困惑する思考が頭の中をぐるぐると巡り、瞬矢は一旦引き返そうと試みる。


 だが相反して足は勝手に進み、ビルの入り口手前でぴたりと歩みを止めた。


「あっ……」


「……」


 通りの一角に、静寂を切り取ったかの如く妙な間が流れる。無言で立ち上がる茜。


「お前さ――」
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ