【S】―エス―01
第14章 闇を照らす光
――25日、午後4時30分。
道路を行く車のけたたましいクラクションが、茜を現実に引き戻す。
目に映る街並みは、あの時のようにオレンジ色に染まっていた。
立ち止まり、ビルの3階の窓を見る。電気はついていない。
とりあえず、もうしばらくここで待ってみることにした。
人は時間を持て余し、1人でいる時ほど色々と考えてしまうものだ。過去のこと、そしてこれからのこと。
『何も知らないくせに!』
あの時四宮に言い放ったそれは、他でもない自分自身に向けられた言葉。
思えば、自分は瞬矢のことをどれほど知っているのだろうか。また、瞬矢も自分のことをどれほど知っているのだろうか……。
茜はビルの合間に蔓延る深淵を眺めながら思考を巡らせる。
『――茜ちゃん』
「……!」
不意に明るい少年の声と口元だけを捉えた笑顔が脳裏によぎる。
わずかだが茜はその声と笑顔に覚えがあった。
昔、よく一緒になって遊んだ、今では顔もぼやけて思い出せないその子。
(名前……、なんていったかな?)