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【S】―エス―01

第14章 闇を照らす光

 
『――約束だよ』


(そうだ。私、その子と約束したんだ。……でも、何を……?)


 断片的な記憶の欠損。


 思い出そうとする度に襲う割れるような頭の痛み。


 顔も名前も忘れたその子と、何か大切な約束をした。それはとてもとても大事なことだったはず。


 いくら考えても思い出せない罪悪感に苛(さいな)まれ、重く締め付けられる胸の内を少しでも軽くすべくふっと天を仰いだ。


 昔のことをほとんど覚えていない。自分もまた、瞬矢と大差ないのだと。


 その時、左斜め上から差した影が目の前の光を遡る。そのまま左上へ視線を送ると――。


「あっ……」


 茜は思わず声を漏らす。自分のいたビルの入り口の手前で、足を止めた瞬矢が物言いたげにこちらを見下ろしている。


「お前さ――」


 少しの間を置き、彼が何か言おうとした。


『どうするかは自分で考えなさい』


 彼女の言葉が頭によぎり、考え深げに少し俯く。一時の間を置いておもむろに立ち上がり、にこりと笑んだ。


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