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【S】―エス―01

第15章 宝探し

 勿論、当時の香緒里には、その言葉の意図するものが何かなど知る由もなかった。


 父、健の思い詰めた表情は一瞬ふっと和らぎ、以前のような優しい笑みを見せる。


 それから2年ほどして、父は事故で亡くなった。


     **


「――……父さん」


 一言呟いた香緒里は、パソコン画面に映し出された映像の中の、父親とおぼしき人物を指先ですっとなぞる。


 あの時の父の目は、とても悲しい色をしていた。


(あの父が私に何も遺さなかったはずがない)


 ノートパソコンを閉じメモリーカードを引き抜く。そしてすっくと立ち上がり、リビングに背中を向ける。


(これはきっとあの時できなかった【宝探し】の続き。明日、少しだけ実家に帰ってみよう)


 もしかしたらそこに何かあるかもしれない。そんな思いが香緒里の心にひとつの決断をさせた。



 ――明けて翌、11月8日。


 午前10時45分。車窓に流れる懐かしい風景を眺め香緒里は考察する。


(私になら見つけられる【本当の真実】か……)


 ふっと頭によぎったのは、13歳のあの日、香緒里に向け発せられた父親の台詞だった。
 

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