【S】―エス―01
第15章 宝探し
目を瞑って思い出されたのは、今は遠く昔の記憶。
いつも見つけ易いよう、父が決まってつけてくれていた目印。縁側の犬走の端、草に隠れたブロック塀、石の裏、どれも目立たないようこっそりと。
最初は数字や記号だったが、いつの頃からかそれは【S】の一文字に変わっていた。
香緒里がそれに気づいたのは父が死んでからのこと。
当時は気づかなかったが、自分と【S】の接点はその頃からあったのだ。
すうっと閉じていた目を開き、香緒里は感慨深げに今一度窓の外に広がる庭の景観に視線を落とす。
「――!」
偶然だろうか。視界に映った桜の幹が、まるでアルファベットの【S】を描いたように根元から歪(いびつ)に湾曲していたのである。
角度によって見え方が違う為、玄関を入る前は気づかなかった。
(まさか……!)
ふとよぎった思いに香緒里はくるり踵を返すと、勢いよく部屋を飛び出して階段を駆け下りる。
「どこ行くの?」
居間から母親が顔を覗かせて問う。
「ちょっと庭に宝探し!」
玄関へと向かう歩みはそのまま、顔だけを向けて言葉を返す。