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【S】―エス―01

第16章 雪の降る夜

 ◇2


 休憩室のロッカーからジャンパーを取り出した茜は、ふとその手を止める。


「……」


 そう、思い出したのだ。大好きだった、忘れないと約束した『その子』の名前。


 きっかけは、今朝見た記憶にも近しい夢。


     **


 ――それは12月上旬、遅めの初雪がちらついていた時のこと。


「りく、ずっといっしょだよ?」


 転んで足を挫いた少女は黒髪の少年『りく』の背中におぶさり、嬉しそうに頬を赤らめ言う。


 すぐ右側には、クリーム色の外壁が聳えていた。


(ああ、そうだ『りく』思い出した。でも……)


 茜の中で、幼い頃の自分と今の自分の感情が交錯する。


 頬に落ちては溶ける雪の冷たさが【不安】という一文字に変わり、少女の胸を締めつける。


「ねぇ、りく――」


 少女の不安をくみ取ってか、りくは「大丈夫」そう言い笑ってみせる。それが、少女とりくが交わした最後の言葉だった。


 それからしばらくの後、屋敷で大きな火事があった。今から10年前の夜のこと。


 助かったのは、自分と両親を含めて計8名。


 ――屋敷を包む赤い炎を見つめ、視界が暗転する。
 

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