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【S】―エス―01

第16章 雪の降る夜

 外へ出ると、空気は刺すように冷たく身震いを起こす。雪が降るかもしれない――ふと、そんな考えがよぎる。


 瞬矢は、入り口の向かって右端にある喫煙スペースで煙草をくゆらせていた。その姿は何かしら思慮に耽っているよう。


 自動ドアの開閉する音で瞬矢は茜の存在に気づく。そして備え付けの灰皿に灰を落とし、視線を送りながら「悪いな」と軽く笑む。


「いいよ。で、何?」


 そう言い、備え付けの灰皿を挟んで隣に立つと瞬矢は切り出す。


「実は――」


 先日病院で面会者欄に『東雲 刹那』という名前が書かれていたことを伝え、一旦そこで言葉を切る。


 瞬矢は考えるように伏せた視線を游がせ「それで――」と続ける。


「前の日に屋敷の裏側で墓石を見つけて、そこには『東雲 刹那』って彫ってあった。だからたぶん、その……」


 選ぶように紡がれた言葉は、やがて喉の奥で答えを詰まらせる。きっと、その先を言っていいものか迷ったに違いない。


 だが瞬矢の言葉に茜はさして驚嘆を覚えなかった。それも全ては、今朝見た夢のせいなのだろう。


「……そうなんだ」
 

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