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【S】―エス―01

第16章 雪の降る夜

 屋敷の地下の研究施設で決まった時間、定期的に与えられる食事。


 番号をふられ、閉じ込められ、まるでケージに入れられた実験用の白いマウスのように。


 そんな彼らに与えられたのは、ステンレスの器に盛られた溶けかけのアイスのような、シャーベットのような流動食。


 温もりを――心を感じない冷えたそれを、瞬矢たちはそこで与えられる唯一の食べ物と認識していた。


 ただ苦痛の中、冷たいながらも口内にほんのりと甘味を与えるそれが、彼らに善くも悪しくも自身の存在を実感させてくれていた。


 彼が初めてそれ以外の温もりある食事を見たのは、斎藤家に迎えられてから。


 その時のことは、今でも彼の中によき思い出として残っているのではなかろうか。


 茜は言葉を失い目を見開き、ただただ瞬矢を見上げ、彼の話を聞いていた。


 一通り話し終えた瞬矢は、再び何かを思い出したかのようにくすりと笑う。


「どうしたの?」


 いったい何が可笑しいのかと小首を傾げ茜は訊ねる。すると瞬矢は、少しばかり俯き目を細め答えた。


「……いや、初めて斎藤の家に来た時お袋がさ、言ったんだ」


 そして当時を懐かしむような口調で、更に言葉を続ける。
 

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