【S】―エス―01
第16章 雪の降る夜
「テーブルの上の料理をずっと見てた俺に『眺めててもお腹膨れないでしょ』って、呆れ顔で。それ思い出してさ」
確かにそのとおりだと、茜もつられてくしゃりと笑う。
いまだにその頃の習慣が抜けず、瞬矢曰く、あると落ち着くのだそうだ。
安定剤のようなもの。瞬矢の話を、茜はそう解釈した。
2人の間に漂う一時の静寂。
「でも――」
その静寂を打ち破り、瞬矢が切り出す。
「なんであいつがあの名前を使ったのかは分からないけど、今までどうしてたのかな……って」
「心から分かち合えるような奴、あいつにはいたのかな」息を吐き、そう言った瞬矢の表情は窺い知れない。
だが瞬矢もまた、少なからず自分と同じことを思っていたようだ。
「思うんだ。真実に近づく度、周りが何も見えなくなって、いつかそのまま見失っちまうんじゃないかって」
それを聞いた茜は宙に視線を漂わせながらしばし一考に耽り、やがて自分なりの回答を導き出す。
「例え見失っても、自分の中にあるもの……目的っていうのかな? それだけは見失っちゃいけないと思うから」