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【S】―エス―01

第3章 亡霊からの手紙

 その時、瞬矢の脳裏にあるひとつの考えがよぎり、全身からすっと血の気が引く。


「弟だ。でも、あいつは確か10年前に死んだはず……」


 口元に右手を当て顔をしかめ瞬矢は言う。


 しかし、瞬矢の心の底でわずかに巣食う矛盾を明白なものとしたのは、茜の発言だった。


「じゃあ、死人がこの手紙を書いたって言うの!?」


 死んだ人間からの手紙――。


 そんなこと、あり得るはずがない。そもそも、瞬矢にとって弟が事件に関わっているなど思いたくもない話だ。


「分からない」


 瞬矢は、眉間にしわを寄せたまま手紙と新聞を交互に見比べ呟く。窓の外では雲が太陽を隠し、わずかな影を落とす。


「分からないって……」


 茜は、相変わらずの怪訝(けげん)な表情で食い下がる。


「実をいうと、ほとんど覚えてないんだ。10年以上前のことは何も。弟のことは、昔お袋に事故で死んだとだけ聞かされてた。双子だったって」


 手紙の最後に書かれた『from S』の文字だけを見つめ、瞬矢は言う。


「そう……、なんだ」


 茜は俯きそう返すと、それ以上何かを訊くことはしなかった。
 

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