【S】―エス―01
第16章 雪の降る夜
言われてみれば、確かにその子の名前も、その子が死んだことも今の今まですっかり忘れていた。
つられるように、茜は今にも雪が降りだしそうな暗く重たい天を仰ぎ見る。
全てを思い出せた訳ではない。
2人の記憶をどんなに足し合わせても、明らかに足りないパズルのピース。
だが茜は思う。欠けた記憶の先、そこに真実があるのだろうと。
漆黒に塗り潰された空から降り始めたいくつもの小さな白い粒は、街の明かりに照らされ花びらのように舞う。
「……あ、雪。降ってきたね」
夜空に寒さを誇張させる雪の結晶がちらつき、頬を撫でては溶け消えていった。
ふわり、温かい何かが首にかかり襟の隙間を埋めるように冷えた大気を遮る。
にべもなく首に巻かれたそれは、つい先ほどまで瞬矢が身につけていた深緑色のマフラーだった。
「――!」
茜は、目を丸くし瞬矢を見上げた。
「じゃ、風邪ひくなよ」
ぷいと背を向け右手をあげる。愛想のない言葉を残し、雪がそぼ降る夜の街並みに消えていった。
(相変わらずなんだから……)
内心悪態をつくも表情は綻びにわかに頬を染め、くすりと笑んだ。
つられるように、茜は今にも雪が降りだしそうな暗く重たい天を仰ぎ見る。
全てを思い出せた訳ではない。
2人の記憶をどんなに足し合わせても、明らかに足りないパズルのピース。
だが茜は思う。欠けた記憶の先、そこに真実があるのだろうと。
漆黒に塗り潰された空から降り始めたいくつもの小さな白い粒は、街の明かりに照らされ花びらのように舞う。
「……あ、雪。降ってきたね」
夜空に寒さを誇張させる雪の結晶がちらつき、頬を撫でては溶け消えていった。
ふわり、温かい何かが首にかかり襟の隙間を埋めるように冷えた大気を遮る。
にべもなく首に巻かれたそれは、つい先ほどまで瞬矢が身につけていた深緑色のマフラーだった。
「――!」
茜は、目を丸くし瞬矢を見上げた。
「じゃ、風邪ひくなよ」
ぷいと背を向け右手をあげる。愛想のない言葉を残し、雪がそぼ降る夜の街並みに消えていった。
(相変わらずなんだから……)
内心悪態をつくも表情は綻びにわかに頬を染め、くすりと笑んだ。