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【S】―エス―01

第17章 困惑

 身を起こした際に見えた左の首元、そこからわずかに傷痕が覗く。


(……? 火傷……かな?)


 首元から肩胸の辺りにまで広範囲に亘るそれは、どちらかというと火傷の痕のようにも見えた。


 視線を辿らせ上に送ると彼の顔が今までにないくらい近く、再び胸の高鳴りを覚える。


 けれども夕暮れに染まるわずかだが憂いを帯びた寝顔に、思わずほうっと見とれてしまう。


 遠慮がちに襟元に手を添え瞬矢の顔を覗き込み、ひとつ吐息を漏らすと茜は語りかける。


「瞬矢……私、ほんとはね――」


 伏し目がちな茶色の瞳は、偽らざる心の映し鏡のように、ゆらり切なげに揺らぐ。


(瞬矢が『りく』だったら……って思ってたんだよ?)


 言葉の続きを心中に留め薄く目を閉じ、自身の顔を重ねるように傾け近づける。ソファが小さくぎし――と軋む。


 さらり、肩まである栗色の髪がオレンジの夕日を遮る。


 茜は、まだ誰とも唇を重ねたことがなかった。


 よって生じた多少の【躊躇い】。それが彼女の所作を鈍らせる。


 でも彼となら――、そう思っていた。


「ふ……っぅ」
 

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