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【S】―エス―01

第17章 困惑

 緩やかな唇の隙間から抜けるように漏れた息。


 近づくほど心拍数は早まり、緊張と胸の苦しさで唇が震える。わずか数センチ、互いの息がかかるほどの距離。


 頬から耳にかけてが、より一層の熱を持つ。


「ん……」


 低く小さく漏れ出た声に心拍が一瞬どきりと跳ね上がり、近づけた顔は寸でのところで止まる。


 顔を離し見ると、閉じられた瞼の際(きわ)に滲むものが瞬矢の睫毛を濡らしていた。


 夢を見ているのだろうその純真な涙に、茜は自分の行動を恥じた。波の如く押し寄せる羞恥の感情。


 掴んでいる手に触れ指をほどくことすら躊躇われた。


 一回り大きな手を掴み引き離す。崩れるようにぺたんと床へ座り込む。


 唇に指をあて、目線を游がせ狼狽(うろた)える。


(やだ……。どうしよう、私……)


 気づいてしまった。


 心の奥底に押し隠していた、瞬矢に対する本当の気持ちを。


 未だ鼓動は早く、全身を巡るように帯びた熱は引かない。


「――んぅ……っな……!」


 突如発せられた譫言(うわごと)にはたと茜は顔を上げると、気まずさから逃げるかのように駆け出しその場を後にした。


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