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【S】―エス―01

第17章 困惑

 ◇2


「――刹那ぁ!」


 屋敷の中、オレンジ色に燃える炎。少年は自らの片割れに手を伸ばし叫ぶ。


 10年前の火事があった日。


「早く、こっちに!」


 ゆっくりと首を横に振り、そして炎に囲まれているとは思い難い、酷く落ち着きある笑みで少年に言った。


「ありがとう。君が僕を忘れないでいてくれたらきっと……」


 一旦言葉を切り俯き、再び顔を上げるとこう続ける。


「大丈夫。君と僕は同じなんだよ。だって僕らは――」


 天井の梁(はり)が落ち、少年の左肩に当たる。片割れが発した言葉の続きは、崩れ落ちる柱の音と火の粉に掻き消された。


(『俺たちは』なんなんだ? くそっ……熱い……)


 『刹那』と呼ばれたもう1人の少年は笑みを浮かべたまま炎の中へと飲み込まれていった。


 「10年後、また会おう」そう言い残して。


 ――暗転。急激に視界が照らされ眩しい。窓からの風にカーテンレースがふわりと靡(なび)く。


 相変わらず目線は低いまま、屋敷の部屋の前にドアを開け立っていた。


(ここは例の屋敷……ってことは、また戻ったのか?)
 

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