【S】―エス―01
第17章 困惑
さすが夢だけに脈絡がない。
だがしかしどうしても思い出せないのは、眼前で軽やかに靡く白いカーテンレースのように頭の中を覆う靄(もや)のせいだろう。
広い部屋の奥には、白地に花柄のワンピースを着た自分よりも幼い1人の少女。
「こっち、おいでよ」
背中まである栗色の長い髪の少女は言った。
(……誰だ?)
「君、誰?」
少女に向かい自身が発した声は、相変わらず少年のそれだった。
「私は――」
笑顔のまま彼女は答える。
どこか聞き覚えのある、小鳥が囀(さえず)るような声で。やがて霞みがかった視界は次第に晴れてゆく。
瞬きをすると目の前に少女がいた。目線の高さから、どうやら床に腰を下ろしているらしい。
少女は小首を傾げ、恐らくきょとんとしているのであろう。右手の人差し指を口元にあて、不思議そうに言う。
「今日は、ぜんぜんしゃべらないんだね」
伏し目がちな彼の視線は、床につかれた手元を見る。わずかに自身の口角がつり上がるのが分かった。
視線の先、左手首にはナンバー【S‐06】と彫られた銀の腕輪が光る。
だがしかしどうしても思い出せないのは、眼前で軽やかに靡く白いカーテンレースのように頭の中を覆う靄(もや)のせいだろう。
広い部屋の奥には、白地に花柄のワンピースを着た自分よりも幼い1人の少女。
「こっち、おいでよ」
背中まである栗色の長い髪の少女は言った。
(……誰だ?)
「君、誰?」
少女に向かい自身が発した声は、相変わらず少年のそれだった。
「私は――」
笑顔のまま彼女は答える。
どこか聞き覚えのある、小鳥が囀(さえず)るような声で。やがて霞みがかった視界は次第に晴れてゆく。
瞬きをすると目の前に少女がいた。目線の高さから、どうやら床に腰を下ろしているらしい。
少女は小首を傾げ、恐らくきょとんとしているのであろう。右手の人差し指を口元にあて、不思議そうに言う。
「今日は、ぜんぜんしゃべらないんだね」
伏し目がちな彼の視線は、床につかれた手元を見る。わずかに自身の口角がつり上がるのが分かった。
視線の先、左手首にはナンバー【S‐06】と彫られた銀の腕輪が光る。