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【S】―エス―01

第17章 困惑

 長い瞬きの後、再び瞼を持ち上げると部屋の景色は昼から夜へ。半開きの窓に、カーテンが寒々しく揺らぐ。


 外はにわかに雪がちらついていた。


 目の前には白い息を吐く少女。暗がりでよくは分からないが、なんだかとても嬉しそうだ。


 思わず頬を緩めると、彼女は右腕に目を留めて声をあげる。


「あっ! けがしてる」


(怪我?)


 夢だからか怪我をしたというのに痛みも自覚もなく、首を傾げたことで視界が斜めに振れる。


 小さな手が右腕に伸び触れた。それをゆっくり目線で追う。


 いつも着ている襟元に細めな黒リボンのついた白いシャツ。その袖の端を、鮮やかに染める赤があった。


「これでよしっ……と」


 暗く寒々しい部屋に、軽快な少女の声がひとつ。見ると右掌の辺りにハンカチらしき物が巻かれていた。


 再び視界に現れた彼女は満足そうな笑顔。幼いながらもその表情は、そこはかとなく……。


「もう大丈夫だよ、りく!」


 小首を傾げ少女はにっこり笑う。人懐こいその笑顔は、忘れようはずもない。


(お前、まさか……茜?)
 

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