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【S】―エス―01

第17章 困惑

 手繰り寄せた、もう彼の残り香さえ伝えてくれないマフラーを、胸の辺りできつく握り締めた。


「……っ……バカ……」


 嗚咽混じりに吐き出した言葉は、宛てどなく空へ消え入る。


 俯いたことで留まりきれなくなった涙がぽたぽたと溢れ落ち、床に温かな染みを作る。



 ――午後4時20分。


 オレンジ色に染まる部屋から、茜の姿は消えていた。


 吹き晒しとなったブラインドがカラリ、カラリと乾いた音をあげて風に靡く。





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