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【S】―エス―01

第17章 困惑

 
 時刻は午後5時10分。


 山間ということもあって、辺りはすっかり宵闇に覆われていた。


 もしあの記憶が本物なら、【それ】の存在を示すものがこの場所のどこかにあるはず――。そう踏んだのだ。


『――さぁ、実験の始まりだ』


 過去の記憶から呼び起こされた、男のくぐもった低い声が脳内に爪を立て鷲掴む。


 その記憶は決して離れることなく、瞬矢の頭の奥深くに重たく首をもたげ続けていた。


 東雲の門扉を潜り抜け、敷地内に車を止める。車内から途中で購入したシャベルと懐中電灯を取り出す。


 炭化した梁、瓦礫と瓦礫の間を縫うようにゆっくり、ゆっくり歩く。


 敷地の中央部分に来た時、突如瞬矢の網膜を何かが支配し、もはや自分のものかすら分からない記憶の隅に眠る映像を見せる。


 ――それは、朧月(おぼろづき)が照らすある晩のこと。


 窓の隙間から偶然見えた、何かを地中に放り投げて埋める2人の男。月明かりが男たちの姿をさらけ出す。


 ――1人は六野。


 もう1人は『仁井田』こと新田 健。


 網膜の奥の映像は再び現在を映し出す。
 

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