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【S】―エス―01

第18章 影の命

 まるで瞬矢の意向を汲み取るかの如き口調で「全て話す」そう言い彼は踵を返した。


 一瞬垣間見えたその横顔は、今回の一連の出来事とそこにいたる発端の全てを掌握している――そんな表情だった。


 訊きたいこともあり、瞬矢は自らが掘った穴から這い出ると、右端に窺えたフェンスの破れ目を掻い潜りその後を追う。


 午後6時10分。


 2人の間に漂うしばしの沈黙。辺りに蔓延る闇にも似た、重苦しい空気が包み込む。


 焼け焦げた楓の木の傍。そこに停めてあった車のエンジンを切る東雲 暁に瞬矢は投げかける。


「どうして分かった?」


 屋敷跡への再訪と人骨の発見に、その全てを見計らったかのような現れ方。あまりにもタイミングがよすぎた為だ。


 ヘッドライトが消え、辺りは再び瞬矢の手にした懐中電灯の明かりのみとなる。


「何がだい?」


 顔だけでわずかに振り向いた彼は意味ありげに口角をつり上げ、素っ惚けた返答。ここでそれを話すには不足……ということであろうか。


 だが瞬矢は気づいていた。今、目の前にいる人物こそが、記憶の奥深くずっと首をもたげ続けるあの声の主であることに。
 

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