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【S】―エス―01

第18章 影の命

 あの時、無表情で血溜まりに佇む記憶の中の『彼』はこのドアを指差していた。


 もうすぐ全てを知ることができる。目の前のドアを見据え固唾を飲む。


 前回同様、機械的な音が鳴り響く。その度にある言葉へ変換され、脳内に反響するのだ。


 おかえり、おかえり、おかえり……――『おかえり』と。


 音が鳴り止むと共に、固く閉ざされたドアは空気を吐き出し解錠された。


 ドアを開けると、当然であるが眼前に広がる部屋は真っ暗だ。


 電気をつけると蛍光灯は数回点滅し、やがて無機質なくすんだ光で部屋の全貌を明るみにする。


 入り口に佇み、まずは隅々に視線を游がせてくまなく見回す。


 床はタイル張りで全体的に白一色。隣接した部屋同様、床にガラス片が散らばったその場所は、初めて見るのにどこか懐かしい感じがした。


 右側の壁には、なぜか色褪せた揚羽蝶の写真。


 当の東雲 暁は部屋の突き当たりまで歩き、横倒しとなっている棚に腰を下ろして溜め息混じりの一声。


「さて……と」


 その一言をかわきりに、瞬矢は游がせていた視線を東雲 暁に移す。


「どこまで思い出した?」
 

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