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【S】―エス―01

第18章 影の命

 ◇2


 ――その頃。


 茜は白いパイプベッドの上で目を覚ます。視線を上へ送ると、冷たくくすんだ灰色の縦横に鉄骨が張り巡らされた天井が映り、見たことのない場所にいた。


(私、確か瞬矢のところ行ってて……それで……)


 茜の手には深緑色のマフラーがそのまま握られていた。最後に交わした彼とのやりとりを思い出し、胸の奥が締め付けられる。


 かぶりを振ると両手をついて起き上がり、周りを確認する。


 今自分のいる場所はだだっ広く、ただの民家でないことがカーテン越しにも確認できた。静かさから、街中ではないだろう。


 視線をベッドの足元の方に移すと、カーテンを挟んで人影がひとつ映る。


(……ここは?)


 どこからかクラシック音楽が流れている。


「この曲……」


 それは幼い頃から耳に残る雄大な、夕暮れを連想させる曲。


「交響曲第2楽章『新世界より』」


 半透明なカーテンの向こう側から、低く穏やかな若い男の声が聞こえてきた。聞き覚えのある男の声。


 だが声は聞こえども姿が見えない。それもまた恐ろしく、茜は躊躇いながらもそろそろと手を伸ばし、目の前の半透明なカーテンを捲る。
 

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