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【S】―エス―01

第18章 影の命

 すぐ眼前に歩み寄る彼は、視線を合わせるよう前屈みになる。半目し覗く瞳は以前見た淡い紫色ではなく、自分と同じ茶色をしていた。


「あなたがやったの? 全部……」


(やっぱり双子なんだ。瞬矢とそっくり)


 改めて間近で刹那を見て、茜は思う。


「さあね。どうかな」


 だが彼はベッドの縁に腰かけ、何を言っているのか分からないとばかりに嘯(うそぶ)く。


「っ……!」


 逃れようとベッドに手をついた。その際、右の掌に走り抜けた痛み。


 忘れかけていた痛みが蘇る。


 生じた一瞬の隙。不意に刹那が右手を取る。


「あの時……」


 そして掌の傷を見ながら、思い出すように切り出し、やおらコートのポケットから白いハンカチを取り出す。


「あの時は、君がこうして怪我をした僕の手にハンカチを巻いてくれたね」


 いったい何を言っているのかと眉をひそめ、だが彼は気にする素振りも見せず、右手に白いハンカチを巻いてゆく。


 茜はそのハンカチに見覚えがあった。


 白地の隅の方に小さく蝶の刺繍が入った、幼い頃、大好きだったあの子の手に巻いてあげたハンカチ。


「まさか、あなたが……」
 

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