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【S】―エス―01

第18章 影の命

 震える声で訊ねる茜に、刹那は肯定的な笑みを浮かべる。


 刹那が『りく』だった。


 突きつけられた事実に、茜は身に迫る危機感すら遠のき、逃げ出すことも忘れる。


 だが例え彼が『りく』であったとしても、今回の事件の主犯であるという事実が変わることはなかった。


「……あなたは可哀想な人よ、刹那」


 強い眼差しで真っ直ぐ彼を見据える。しかし刹那はそんなことなど気に留める様子もなく、右手を取ったままくすりと笑う。


「可哀想、僕が? それはどうしてだい?」


 そんな彼の纏う雰囲気に気圧されぬよう「だってそうでしょ」と、終始強い口調で続ける。


「こんなことでしか、自分を表現できないんだから」


「『こんなこと』ね……」


 刹那は目を伏せてぽつりと溢した。俯き加減になったからか、彼の口の端にはわずかな笑みが窺い知れる。


「何が……可笑しいの?」


 決して笑えるようなことは言っていない。にも関わらず、彼が薄く笑っていることに茜は訝しみ、同時に底知れぬ闇を垣間見た。


「それは、今回の事件のことかい?」
 

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