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【S】―エス―01

第3章 亡霊からの手紙

 言い終える間もなく、キィー……ンという甲高い耳鳴りがし、瞬矢の脳内神経を全く別なものが支配する。


 視界にちらつくのは、先ほどの烏揚羽。


「――っ!」


 次第に酷くなる耳鳴りに頭を抱えよろめく。


「……逃がさない」


「えっ?」


 どこかいつもと違う様相で発せられた瞬矢の言葉に、思わず目を丸くして素っ頓狂な声を上げる茜。


 「君たちが僕を……」そう独り言のように呟いた瞬矢は、1人ふらふらと歩きだす。


「ち……ちょっと!?」


 だが、そんな茜の声すら耳に届かないといった様子で歩き続け、やがて遊歩道からほど近い桜の木の下でぴたりと足を止めた。


「ここだ」


 瞼の奥で、暗がりの中冷たく笑みを浮かべる弟の顔が自身と重なる。


「どうして……?」


 俯いたまま一言そう呟くと、悲しげに足元を見つめ続けていた。春の陽気を孕んだ心地よい風が、さぁ……と吹き抜ける。


(しばらくの間、あいつはここでこうして見ていた)


「――刹那……」
 

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