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【S】―エス―01

第18章 影の命

 左右の体に目を配り、見えるはずのないそれを確認する。――と同時に、瞬矢の心の内に沸々と沸き上がる、ある感情。


 怒り、そして憤り――。


「どうして……どうして、分かった時やめようとしなかった!?」


 とめどなく沸き上がる感情を露に、1歩右足を前に踏み出す。


 もしも刹那が……『弟』が全てを知っているとすれば、その時彼は心にいったいどれだけの痛みを覚えただろう。


 元凶となる人物を捉える視界が霞む。


 「やめようと思ったさ」そう呟く俯き加減な表情は、わずかに陰りを示す。


「まだ9歳だったんだ。生かしてやりたかった……どんな手段を使っても……」


 踏み出した右足をゆっくりと引く。


「……」


 自分自身に置き換えてみた時、彼の考えを完全に否定できるかといえば答えは『否』だったからだ。


 地下への入り口から階段を通り部屋続きに冷たく吹き込む風が、頭の天辺にまで昇った血を下げてゆく。


「……それでも、俺たちさえいなければ……」


 そう。自分たちの存在さえなければ、今回のような事件は起こらなかったはずだ。


 茜も、悲しい思いや辛い思いのひとつもしなくてすんだだろう。
 

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