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【S】―エス―01

第19章 真相、そして――

 日付は約12年前のものでそこには関った者以外決して知り得ない、事件の真相に繋がる言葉が時に断片的に、時に切々と書かれていた。


《20XX年 10月25日。屋敷の地下、実験。遺伝子の突然変異――。
 薬品1 Schaten Lebe(シャテン レーベ)――【影の命】……水色。
 これは対象者の息子、東雲 刹那のクローニングと関係? 水面下で何が……。この実験はどこへ向かうのか?》


 さらにページを捲る。


《11月28日。実験は新たな段階へ。
 薬品2 Sein Schmerz(ザイン シュメルツ)――【存在の痛み】……薄紫。人としての……否、決定的に欠如。彼らに尊厳は――。
 かくいう私も加担者の1人である。彼らの今後にどうか光あらんことを》


(何……これ……)


 彼らは、斎藤 瞬矢はこのことを知っているのだろうか。


 いや、少なくとも『刹那』は知っているだろう。でなければ事件を起こさないはずだ。


 手帳を片手に香緒里は迷う。この事実を知らせるべきかどうかを。


 考えた末、父親の手帳という情報のみを知らせ、その内容を見るか否かの判断は彼自身に任せることにした。
 

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