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【S】―エス―01

第19章 真相、そして――

 咄嗟に拳を繰り出すが、それすら紙一重でかわされ掴まれる。風圧で目深に被ったライトグレーのフードがふわりと少し捲れる。


 その時確かに見た。闇夜と同じ艶やかな黒い前髪の合間から覗く、桜色にも近い薄紫の瞳を――。


「残念でした」


 見覚えのある顔は、夜空に輝くそれに劣らぬ三日月の笑みで言う。


 同時に腹部へ走る鈍い痛み。彼女が人物の正体に気づいた時、すでに意識は暗転していた。


     **


 ――そして現在。


 わずかに漂う土臭から、恐らく郊外のどこかであろう。


 不自由な両腕を駆使し、肘の当たる感触でスーツのポケット内を確認する。だがポケットに何か入っている感触はなく、どうやら全て取られたらしい。


 もう一度辺りを見回す。すると数メートル先、地面に落ちた携帯電話が目に留まる。


(せめて、居場所を……)


 せめて電源さえ入れば、こちらの位置が特定できる――そう践んだのだ。


「……っ」


 携帯電話に向かい地を這う。その時、前に耳にした声が砂利を踏みしめる足音に混じり聞こえてきた。


「探し物はこれかい?」
 

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